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「半分の月がのぼる空〈2〉waiting for the half‐moon」秋庭里香のヒロイン性について

半分の月がのぼる空〈2〉waiting for the half‐moon (電撃文庫)

 

ずるいのは秋庭里香のヒロイン性だ。きっとそうだ。

「半月」ヒロインの秋庭里香は、ライトノベルのヒロインとしてはいささかキツ目の性格をしている。病気が原因なのか、元からなのかはわからないが機嫌が悪い時はすこぶる機嫌が悪いし、主人公の裕一に対して当然のように命令をする。こちらの腹が立って、逆に少しでも怒らせようものなら、今度は口さえ聞いてもらえなくなる。そんな里香に情けない裕一はいつも根負けしてしまう。そう、彼女は根っからの女王様体質で、裕一は里香の犬なのだ。

そんなわけだから二人が喧嘩しても、最初に謝りに行くのは裕一だ。最初どころか、1回の謝罪じゃ許してもらえないから何度も何度も許しを請う。1巻最後に多田さんから受け継いだエロ本が里香に見つかり、それが彼女の琴線に振れるのだが、高校生なんだしエロ本の1冊や2冊(実際1000冊以上にも及ぶコレクションらしいが……)許容してほしいところである。裕一も開き直ってもおかしくないところだが、ここで開き直れないのはやはり「考えてしまう」からなのだ。喧嘩したまま、里香が死んでしまったらどうしよう。そんな思考が脳裏に浮かぶのだ。

病床の秋庭里香はただそれだけで、大事な存在だということを強く認識させる。いついなくなるやもしれないから、大事にしなければいけない。裕一だけではない、読んでいる読者も例外ではなく、里香を大事にしなければと思ってしまう。秋庭里香は大事にしたくなるヒロイン性を持っているのだ。

 

この巻では裕一はそんなヒロイン性の逆を考える。すなわち「自分が死んだら/怪我をしたら、里香はどんな顔をするだろうか」そんなイタズラは全て空回りしていくのだが、そんな日常やその他のやりとりを通じて、死ということについて考えていく。

 

終盤では、なかなか表にでない里香の心情が、宮沢賢治の「銀貨鉄道の夜」に重ねて語られる。彼女の心情を知ると、よりいっそう彼女を大事にしなければと思うのだ。

やはり、秋庭里香はずるい。