『陸と千星』野村美月ワールドという別世界
家政婦を雇って屋敷ぐらしのお嬢様と、そのお屋敷に毎日新聞を届ける少年の恋物語。
いやーなんて甘酸っぱい設定なのだろうか。屋敷に住むようなご令嬢と新聞配達の少年ってだけで独特の世界観を築き上げている。いったい何時の時代のどこの国を舞台にした作品なんだろう。
なんて思ってたら、現代日本でした。
もう一度言おう、現代日本でした。
前々から薄々と感じてはいたけど、もう野村美月の描く世界観を現代日本というのははばかられるのでいっそのこと野村美月ワールドとでも呼んだほうが清々しいんじゃないかと思うのだがどうだろうか。いいよね、異存ないよね。はい決定。これからは野村美月ワールドでいかせていただきます。
で、
設定からぐいぐいワールドに引き込んでくる本作だが、ストーリーも素晴らしい。
男の子のほうも女の子のほうも一目見た瞬間からハートずっきゅんドキドキ片思い状態なのだが、めんどくさい思考が脳内爆発をおこしてどちらもアプローチをかけられず、それなのに互いの思考はシンクロして「あの子とお話してみたいな……。」なんてなんてなんて考えだす始末。
これが現代日本の中高生だったら絶対「ああ~あの娘とセックスして~」とか口に出してるよ、性欲が口から漏れだすよ。さすが、さすがだよ野村美月ワールド!
みんなストイックでプラトニックで野村美月ックなので、お互いの頭の中ではラブラブオーラが炸裂しているのにも関わらず関係は少しづつゆっくりと進展していく。相手に注がれなかったラブラブオーラはどこへいくのかというと読者の方に全力で飛んでくる。うわ、なんだこの超絶甘酸っぱい空間は! 誰か早くこの二人を爆発させてくれ!
そんな感じで野村美月作品特有のなんか小難しいこと考えちゃうキャラが終始炸裂している作品である。とりわけメイン二人の対比構造と、作中で出てくる牧神と仙女と呼ばれるもう一つのカップルとの対比が面白かったが、いかんせんクライマックスがインパクト不足。設定自体が古典的で地味っていうのもあり、コンパクトにまとめてしまっていることで地味なイメージに拍車がかかっている印象がする。
もう一人出てくる女の子もあんまり悪い子じゃなかったし、もう少しトリックスター的にかき回してくれたほうが楽しくなるような気がする。
あとがきによると、「文学少女シリーズ」などよりも前、「うさ恋」を執筆していた頃に書かれた作品だそうで、この作品が世にでなかったことが後の野村美月作品に少しづつ影響を与えているというのはなんとなく納得感がある。
1巻で完結していて読みやすいので、たまにはクラシカルな恋愛モノが読みたいって人はぜひ。