密室の中で繁栄する〔少女庭国〕
久しぶりにやばい本を読んでしまったので全力でシェアさせていただきたい。
まずあらすじを引用する。
卒業式会場の講堂へと続く狭い通路を歩いていた中3の仁科羊歯子は、気づくと暗い部屋に寝ていた。隣に続くドアには、こんな貼り紙が。卒業生各位。下記の通り卒業試験を実施する。“ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n‐m=1とせよ。時間は無制限とする”羊歯子がドアを開けると、同じく寝ていた中3女子が目覚める。またたく間に人数は13人に。脱出条件“卒業条件”に対して彼女たちがとった行動は…。扉を開けるたび、中3女子が目覚める。扉を開けるたび、中3女子が無限に増えてゆく。果てることのない少女たちの“長く短い脱出の物語”。
あらすじに目を通してもらえればわかると思うが、いや逆に一切わからないとは思うが、ご察しの通り本書は不条理SFである。しかしただのバトルロイヤル物とは断じて違う。
わけもわからぬうちに密室に閉じ込められ、”卒業試験”という無理難題を押し付けられた少女は、扉を開けていくことにより瞬く間に13人に増える。扉を開けた向こう側には同じ境遇の少女が眠っていたのだ。いくつの扉を開けても増え続ける少女たち、終わらない密室に絶望し、憔悴しきった少女たちは”卒業試験”に取り組んでいく。
貼り紙に書かれた内容はひどくわかりにくいがつまりところ、少女が何人に増えたとしても「生き残れるのは一人だけ」ということなのだ。そう、一人が生き残るまでこの不条理な試験は続く。運命を受け入れ、それでもなお、最後まで懸命に生き抜く少女たちの姿の尊さたるや!!
少女たちが最後に選んだ生き様もすごく素敵なのだが、自分が好きなのはそんな少女たちの描き方――セリフの書き方にすごく胸がトゥンクする。以下本文より引用。
「ここどこ誰あなたたち」
「私仁科他四名、あなたここってどこだか判る」
「何? どこここ」女子は辺りを見回した。「何の部屋?」
「あなたも気づいたらここで寝てたの」
「私が何?」
「歩いてたらここに寝てたんじゃないの?」
「ていうかあなたら何?」
「私らも気付いたら閉じ込められてたの。卒業式行く途中だったんだけど」
「卒業式? 終わったの?」
「判んない。あなたも気付いたらでしょ?」
「何が」
「閉じ込められてんのが」
「私閉じ込められてんの?」
「多分」
「まじ何で」
「知らないよ。あのさ、説明するから聞いてくれる?」
「いいけども?」
「私たちも閉じ込められたの歩いてて気付いたら意識なくて。起きたらなんか知らない部屋じゃん。ドア開けたら隣でも人が寝てたの」
「どういうこと?」
「よく判んないけどそこの紙見て」
「何この紙?」
「私らのいた部屋にもこれ貼ってあったの。怖くない?」
「どこ貼ってあったの?」
「いたとこ」
「学校?」
「じゃなくてさ」羊歯子は当惑した。「え、いってる意味そんな判んない?」
ああこのわかりますか? 判らないけど分かる会話!!
主語とか述語とか接続詞とかぽんぽんすっとばして展開していくこの要領の得なさにすごくリアルな女子中学生を感じてしまう。理不尽にも密室に閉じ込められた女子中学生がこんな調子でお互い殺したり殺さなかったり生きたり死んでみたりする。面白くないわけがないんだなこれが。
閉じ込められた者たちが急速に現状を理解して(理解しないと話が進まないし)脱出を試みるのが密室を舞台にしたサスペンスやバトルロイヤルの作りだと思うが、女子中学生はまず共感を選ぶ。理解より先に不理解を共感する。しかし共感する者を増やしていく度に、より深い地獄へと落ちていく。
調べてみるとこの著者は他の作品でも同じようにリアルな口語体を交えた文体を使っているようで、しかしこの作品ほどこの文体に意味がある作品もないのではなかろうか。
一度読めば、この世界への尊さとかこうして小説という物語に触れている自分たちの儚さとか生きていることの窮屈さだとか人間社会についてまわるもろもろの汚い部分だとかに考え巡らすことを余儀なくされる。そんなお話でした。みんな読め。
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