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「半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon」生きているって感じがする

半分の月がのぼる空―looking up at the half‐moon (電撃文庫)

人が生きているのを実感するのってどんな時だろう。

怪我や病気をした時か、身近で誰かが生まれたり死んだ時か、それとも楽しい嬉しい体験をした時か。

自分が生きているのを実感するのは、面白い本を読み終えた時だ。

なかでも本書は一際、人間の生というものを強く意識させる。

 

 

とまあなんかそれっぽいこと言ってみたけど、本作もライトノベルにありがちなただのボーイ・ミーツ・ガール物の一つだったりする。

高校生の戎崎裕一は入院した先の病院で美少女・秋庭里香と出会う。

どんな美少女と言っても病院という所に長いこと入院しているからにはそれなりの事情というものがあって……といった感じだ。

 

この作品が面白いのは、読んでいるとついつい「考えたくなる」ことだ。

ヒロインの秋庭里香は主人公にとって大事な人である。大事な人がつい明日いなくなるかもしれない、自分の前から消えてしまうかもしれない。そんな考えを徒然巡らせてしまう。

これは病院という特異な環境がそうさせるのだが、つまるところは病院だろうが病院じゃなかろうが一緒である。大事にしていたものが自分の前からなくなってしまうかもしれない。その可能性はどこにいようが変わらない。ただ、それを強く意識する機会はなかなかない。

 

 

クライマックスでは、そんな難しいこと全部をかなぐり捨てるように、二人は夜の山に向けて原付で疾走する。迷いは捨てきれず、想定外の事態も起こり、主人公は何度も迷う。引き返そうかと考える。

それでも走った二人の姿は、初めて読んだ時から、半分の月のその美しいただずみとともに脳裏に焼き付いている。

いつ読んでも傑作。