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ドヤ顔で推理を披露しないと野村美月作品の主人公になれないのか『下読み男子と投稿女子』

下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。 (ファミ通文庫)

 

この話こそ、バトルもダンジョンもない優しくて温かい日常的な話でよかったんじゃないのか?

 

下読みの男の子とラノベを書く女の子が出会って、多くの壁にぶつかりながらも一緒に作品を完成させていく。そういう話じゃ駄目なのか?

自分はこのお話に敵が必要とは思えない。いや、どうせ敵を出すならもっと清々しいまでの悪役が必要だった。純粋な悪意で動いているような悪党を二人の力で打ち破るような勧善懲悪のほうがまだずっとよかった。

主人公は、善意でひた隠しにされてきたことを、心の奥底に封印してきた感情を、さぞ自分だけが完璧に推理したかのように、それこそミステリ作品を楽しむ読者のように、得意気に自慢気に推理を披露して楽しかっただろうか? 主人公の推理は他の登場人物の感情を一切無視している気がしてならないのだ。その事実はなぜいままで秘匿され続けてきたのか一切考えなかったのか? 主人公の口から全てを明かしたところで果たしてみんなの納得が得られるだろうか。全てわかったかのように他人の感情を暴きだすのはさぞ楽しいことだろう。胸がすくだろう。心が弾むだろう。お前だけが気持ちいい世界でお前だけが一生生きればいい。独善、偽善、欺瞞、傲慢、エゴ。吐き気がする。

 

結局何も解決してはいないのだ。なにがしたかったんだこいつは?

氷雪も氷雪の祖母も何も変わらない。騒ぎがまとまったのは主人公以外が大人だったからだ。自分の押し通したい我を我慢して譲りあった結果だ。

 

少年と少女が出会い、事件と直面し解決していくというストーリーラインは「文学少女」や「ヒカル」で繰り返し描かれてきた野村美月の得意分野だ。問題を抱えた少年と少女が出会うことで新たな問題が発生し、それを解き明かしていくという物語は非常に楽しく、読んでいて心地よい気分にさせられる。

「下読み男子と投稿少女」はその作者お得意のラインに下読みの男の子とラノベを書く少女を乗せただけだ。ただの少年と少女は物語というレールに乗せられたばかりに「事件」に巻き込まれる。なんでライトノベル書くって話で家庭問題の解決なんてやらなきゃいけないの???

カテエラについて散々作中でも語っているような作品でさえもカテゴリーエラーに振り回されている事実に暗澹とした気持ちになる。本書は野村美月作品の中でも明確に失敗作といえる作品だろう。しかし、失敗作でも、いや失敗作だからこそ、自分はこの作品を多くのラノベ投稿者に、新人賞の下読みに、大勢の読者に読んでみてほしいと考える。

本書には少年と少女の優しいふれあいの中に多数の厳しい現実がつめ込まれている。どんな大作であろうと万人に愛されることはないし、人気作がある一方で多くの作品はほとんどがたった一人の手によってこき下ろされていく。自分の書きたい物語は必ずしもみんなに愛される内容ではない。それらの厳しい現実は、投稿者には勇気を、下読みには覚悟を、読者には感動を与えてくれるだろう。