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「半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon」生きているって感じがする

半分の月がのぼる空―looking up at the half‐moon (電撃文庫)

人が生きているのを実感するのってどんな時だろう。

怪我や病気をした時か、身近で誰かが生まれたり死んだ時か、それとも楽しい嬉しい体験をした時か。

自分が生きているのを実感するのは、面白い本を読み終えた時だ。

なかでも本書は一際、人間の生というものを強く意識させる。

 

 

とまあなんかそれっぽいこと言ってみたけど、本作もライトノベルにありがちなただのボーイ・ミーツ・ガール物の一つだったりする。

高校生の戎崎裕一は入院した先の病院で美少女・秋庭里香と出会う。

どんな美少女と言っても病院という所に長いこと入院しているからにはそれなりの事情というものがあって……といった感じだ。

 

この作品が面白いのは、読んでいるとついつい「考えたくなる」ことだ。

ヒロインの秋庭里香は主人公にとって大事な人である。大事な人がつい明日いなくなるかもしれない、自分の前から消えてしまうかもしれない。そんな考えを徒然巡らせてしまう。

これは病院という特異な環境がそうさせるのだが、つまるところは病院だろうが病院じゃなかろうが一緒である。大事にしていたものが自分の前からなくなってしまうかもしれない。その可能性はどこにいようが変わらない。ただ、それを強く意識する機会はなかなかない。

 

 

クライマックスでは、そんな難しいこと全部をかなぐり捨てるように、二人は夜の山に向けて原付で疾走する。迷いは捨てきれず、想定外の事態も起こり、主人公は何度も迷う。引き返そうかと考える。

それでも走った二人の姿は、初めて読んだ時から、半分の月のその美しいただずみとともに脳裏に焼き付いている。

いつ読んでも傑作。

 

 

 

アニメ・ラノベファンタジーの”呪い”を描くメタライトノベル「終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?」

終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? (角川スニーカー文庫)

あらゆる能力で他の種族に劣りながらも、勇者と聖剣という独特の”システム”によって長らく地上の覇者たり得た「人間」。この物語はそんな「人間族」が滅んだ後の話である。

 

勇者はそれにふさわしい背景、業や宿命などを背負った者から任命され、それらの業が説得的であるほど力を発揮できる。ドラマチックなバックボーンを持てば持つほどより強い力を発揮できる。逆を返せば、主人公足りえる背景がなければまともに力を発揮できない。そういう物語は望まれないのだ。

だから今作のヒロイン達は求められている、より悲痛な背景を、業を、宿命を。

人間族ではないヒロイン達、その他の種族らは、皮肉にも世界を滅ぼしたと言われる人間族のそのシステムを使って戦い続けている。

勇者”個人”を神輿に担ぎ上げ無責任を決め込む者、年端もいかぬ少女たちを兵器として戦場に送り込む者。それを知っていてもなお戦場へと出向く者。戦うことだけが存在意義な者。戦いだけが存在意義の者に恋を教える者。新たな存在意義を見つける者。

全て、既存のファンタジーへの痛烈なカウンターだ。

 

 

深い背景を持つことを強いられている。そうじゃないと強さを発揮できないから。敵に勝てないから。だからこの物語はどこまでも悲しさを増していく。

描かれているのは呪いだ。読者がより楽しむためにキャラは傷ついていく。

 終末の世界に唯一残った人間はどう動いていくのだろうか。

 

 

「グランクレスト・リプレイ かけだし君主の魔王修業1」TRPGの楽しさがぎゅうぎゅうに詰まった一冊

グランクレスト・リプレイ かけだし君主の魔王修業1 (富士見ドラゴンブック)

 

 

実際のTRPGプレイ風景を書き出した、TRPGリプレイの1冊。

ストーリーを簡潔に表せば、正義の君主がモンスターたちを統べる魔物の王「魔王」になってしまうという最近流行りの”やさしい魔王さま”系統の物語の一種だ。それだけならままある物語のうちの一つかもしれないが、そういった物語が成立する過程がまじまじと描かれるのはTRPGリプレイという媒体ならではだろう。

 

 

本書の書き出しは、キャラクターが冒険をしているシーンでもなく、地の文での語りでもなく、TRPGGM(本書の作者)がどんな物語を作るか計画しているところから始まる。楽屋裏スタートだ。どういう物語を創ろうか計画し、その物語に合わせたプレイヤーを考える。招いたプレイヤーがどういう風に動いていくか思索し、それに合わせてさらなるストーリーを考える。TRPG経験者はわかると思うが、至福の時間である。自分の思うがままに世界や物語をデザインしていくのだ、楽しくないわけがない。

シナリオ(物語)が出来上がると実際にプレイヤーを招いてプライングが行われる。プレイヤーはそれぞれ自分の分身であるキャラクターを創造し、それに合わせてGMのシナリオもさらなる肉付けがされる。

 

 

そういって出来上がる物語は全てがGMの想定どうりに進むわけではない。世界の創造主たるGMにも想定外が起こるのはTRPGの大きな魅力の一つだ。

本書では、本来ならば倒すべき目標であったモンスターたちを救おうと、プレイヤーたちが動き出すのだ。そうした動きに答えようとGMは新たな物語を紡ぎだす。そして1人では決して創り出せなかった物語が結実していく。多少の軌道修正はよくあることだが、シナリオの根幹が揺らぐようなハプニングは他のリプレイ本でも実際のTRPGプレイでもなかなか遭遇しないレアな状況である。それゆえに本書はめちゃくちゃ面白い。

 なんせ、読者どころか作者すらも先の展開がわからない。物語が形作られていくその瞬間を目撃できる。自分たちで物語を紡いでいくというTRPG独特の面白さが引きだった1冊だ。読んだ人はみなTRPGをやりたくなるに違いない。

 

その他にも魅力的な要素は多い。

プレイヤー4人はみな魅力的な人ばかりで、みんな自然なロールプレイなのでキャラクターに中の人の性格がにじみ出てくる様はクスリと笑ってしまう。それぞれの息もばっちりで掛け合いの面白さもひとしおだ。GMが繰り出すNPCも面白おかしく、ゲームの場を盛り上げる。その他にも書ききれない魅力はいっぱいある。

ルールや世界観の説明も丁寧でグランクレストを知らない人はもちろん、TRPGを知らない人にもおすすめしたい。

 

 

 

「最強魔王葉山くんの華麗なる日々」

rmarm.hateblo.jp

アクセス増えたけど小説読んでくれる人は増えないって嘆いてたから読みました。

 

 

ncode.syosetu.com

6話まで読んだ。

主人公以外は誰も階段を登れないという設定はバカバカしくて好き。後半になればもっと複雑な考証がされていたりするのだろうか。

全体的にリアリティがないのがすごく残念。たとえファンタジーでもギャグでも基礎となる地盤がしっかりしてないと読んでて反応にこまる。これはギャグとして狙っているのか作品の世界的には真面目な描写なのか判断に迷うシーンがいくつもあった。

どうでもいいシーンの描写に凝っているわりには最重要な転移先の世界についての描写がボケボケでどんな場所なのかまったくわからない。

そんなよくわからない世界で主人公の行動の意図もわからなかったりするのでひどく不気味。一周まわればシュールさを見いだせるかもしれないが、やはりもっとディティールを凝ったほうがいいと思う。

あと話数進めば進むほど雑になっているよう見えるのは気のせいかな。

 

ドエロじゃなければエロ小説じゃないと思っていた――「極地恋愛」

極地恋愛 1 (ビギニングノベルズ)

 

出版社様から献本を頂きました。

以前にも献本頂いて紹介した2作と同じビギニングノベルズで、つまりは男性向けエロラノベなのだけれど、この作品を読んですごいと思ったのはエロシーンがほとんどないことだ。

エロ小説に関してはそこまで詳しくないのだけど、少なくともいままで自分が読んだものはどれだけストーリー性重視だろうとノルマのようにエロシーンを挿入していて、1巻で少なくとも2,3箇所は抜きどころを作っておくのが作法なのかと思い込んでいた。

この「極地恋愛」は直接的な性描写は数カ所しかなく、それにしたっても本番ではなく前戯だったり自慰ぐらいである。無人島に男女5人が漂流するという半端無くエロ展開を誘発しそうなシチュエーションでありながら、全然エロ展開にならない。

別に男がインポとかホモセクシャルというわけではなく、それどころか表紙中央のキャラなんてバリバリ肉食系である。やらせてくれないのなら無理やり押し倒すことも辞さないような下半身に脳みそが付いているキャラである。

そんな危険人物までいて、なぜエロ展開にならないかというと主人公が全力で島の均衡を保たせているからである。

救助の見込みのない無人島生活。それなのに人間関係は最初から破綻。肉体以上に各自メンタル面の消耗が多く、そんなピリピリとした状況で誰かが誰かを押し倒したなんてことが起こればそりゃあそれまでの関係も全部崩れ落ちるってもので。

主人公とヒロインは、無人島生活をなんとしても生き残るために冷静を貫き通す。サバイバル知識と健康な肉体を持った主人公の庇護を受けようと馬鹿な女が体で誘惑しようとしてくるのも必死で自制心を発揮してこらえる。極限状況である。

読者はギリギリに保たれた均衡を何が崩すかもわからないようなハラハラ感を味合わされる。

そんなわけで直接的なエロシーンはほとんどないのだけど、全体から漂う官能的な匂いが普通のエロシーン以上にエロスである。途中、ヒロインが鬼ごっこしてつかまったら「たっぷりえっちなことしていい」って提案するくだりなんて、思わず涎がでてくるぐらいである。

エロシーンがないのにきちんと男性向け小説として成立していて、なおかつストーリーも面白い。読み終わった後に思わず「なるほどこういうのもありか」って声に出しちゃったよね。ゴローかよ。

既存のラノベ作家だと土橋真二郎作品とテイストがかなり似ているのでドバッシーファンは一読の価値あり。 

極地恋愛 1 (ビギニングノベルズ)

極地恋愛 1 (ビギニングノベルズ)

 

 

 

最初関連する話題として言及しようとしたけどよく考えれば全然関係なかった

togetter.com

今なら自分にも「ニンジャスレイヤー」が感じれる

【Amazon.co.jp限定】ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン 1 起 (初回生産限定版) (今石洋之描き下ろしBD全巻収納BOX) [Blu-ray]

ニンジャスレイヤーはエンブレから出てる書籍版の1巻だけ持っていて、その1巻も周りから薦められて買ったもので、ざっと目を通してみたはいいもののイマイチピンとこない。

独特の世界観とか言語感覚は面白いけど、なんでみんなあんなに狂ったようにのめり込んでいるのかちょっと理解できなくて、周りの盛り上がりからも一歩引いて眺めてた。

だって「イヤーッ!」とか「グワーッ!」とか書かれても正直なにが起こってるのかまったくわからないし、好きな人に聞いてみても考えるな感じろとか言われて。いやさ、感じれたら苦労してないんだよ。自分の凡庸で貧困な発想力じゃ「イヤーッ!」とか書かれたところで全然光景が浮かんでこないんだよ。「イヤーッ!」ってなんだよ。しずかちゃんかよって話。

そういうわけで忍殺ブームにおいてけぼりくらって代わりに富士見版忍殺読んでたりしてたのだ。

 

 

nunnnunn.hatenablog.com

 

忍殺自体からはどれだけ他のラノベ読みが盛り上がってようが完スルー決め込んでたのだけど、そのニンジャスレイヤーがアニメ化してネットで無料で配信されているのだ。

 

ああっ! これだ! 間違いない!!

あの日、あの時、文章を読んでも頭の中に全くインプットされず、靄がかかっていた映像の正体はこれだ!

脳の中に溶け残ってすっきりしない何かがすらすらと氷解していくようだった。

原作読んで何のビジョンも浮かばなかったくせに、このアニメの映像を見るとあの文章はこれを描いてたんだということがはっきりとわかる。それとともに疑問が解消されていく。こんなエキサイティングな映像がまともな文章で書き表せるはずがない。このものすごく濃密な感覚。疾走感。爽快感。映像という形態になってやっとわかった。あの原作の文章が伝えたかったことを。

一度でも原作に目を通した人にとっては納得の出来になっているだろう「ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン」おすすめである。

 

 

『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』このタイトルを見るたびに「勝手にジャスコ行けよ」という他人目線な感想を抱いてやまない

女騎士さん、ジャスコ行こうよ (MF文庫J)

 

 勝手に行っとけ! と思わず突っ込みを入れたくなるようなタイトルの伊藤ヒロ新作で、「タイトルは緩そうだけど、いつもの伊藤ヒロなんでしょ?」と思ってたらいつものようでいつもじゃなかった。

 

田舎ネタとRPG……というか作中でも繰り返し言われる”低価格エロゲー”のネタをこれでもかとごった煮にした闇鍋のような作品。やはり伊藤ヒロの最近のラノベ認識は間違っている

togetter.com

 

終始、田舎ネタとパロディネタが展開されてそれらのキレのよさも抜群であり、特に田舎ネタに関しては田舎リサーチが完璧で、田舎ネタそのものよりも作者の田舎知り尽く具合に笑うレベルである。

 

というわけで「パロディやカオスなネタの応酬に耐性がある人にはいろいろと新鮮に楽しめる良作」と言いたいところだが自分は楽しめませんでした。なんでや!

この作品の変わっているところはパロディを前面に押していながらストーリーもしっかりしているところなのだが、そのストーリーとネタがうまく絡んでいない。ストーリーはいい。ネタもいい。しかしそれぞれが独立してる。噛み合ってない。同じ田舎を軸にしたストーリーとネタなのにまったくフィットしていない。

なぜ噛み合ってないかというと、視点が一つに定まっていないからなのだが。

この作品は、転生してきたことに対しやたらリアクションが薄い田舎住民に突っ込む異世界人と、異世界から来た面々の非常識というよりもはや頭のネジが2,3本吹き飛んでる振る舞いに突っ込む田舎住民によって成り立っている。漫才でいうならWボケ・Wツッコミだ。ネタを楽しむ時は、読者はこの二つの視点をそれぞれ意識する。

対し、ストーリーはジャスコに行きたい異世界人の視点で描かれる。読者はその視点から物語を追おうとするが、そんな時も容赦なくネタは挿入される。視点の切り替えを強制される。

さらに容赦なく襲いかかるのはメタネタだ。随所で挿入されるメタネタによって読者は神の視点に戻される。こうなってしまえばもうどうしていいかわからない。物語にまったく集中できない読むのが辛い。ところどころにお寒いネタを挿入する自主制作映画を見ているような気分になる。

 

キャラの視点に立たないとストーリーは楽しめない「ジャスコ? 勝手にいってろよ」

双方の視点に立たないとネタは楽しめない「異世界の常識も田舎の常識も知らないし」

ひたすら読むのに疲れる。