契約、洗脳、籠絡、悪堕ち……配下を増やしてダンジョン強化のダークファンタジー「魔王の始め方」
出版社様から献本を頂きました。
先日紹介した「姫騎士がクラスメート!」と同じくビギニングノベルズの作品である。
つまりエロ小説なんだけど、ガッツリエロだった姫騎士とは違ってこちらはエロ要素のあるダークファンタジー。 邪悪なる魔法使いである主人公がダンジョンを作り、それを足がかりに魔王として君臨していくという話で、設定自体は最近だとそこまで珍しいものではないが、この作品が他と変わっているのは表紙だとすごいイケメンに描かれている主人公だが実際はヨボヨボのジジイというところである。魔力の力を使って若返り超絶イケメンになる。魔力のちからってすげーっ!
というわけで見た目はただのイケメンだが、その頭脳は何十年と生きてきたジジイのソレである。そのジジイならではの知恵と人心掌握能力で自らの住まうダンジョンをどんどん拡張していく。年を取るまで花開かなかった魔法使いなので魔力だとか戦闘力はからきしなのだが、知略を駆使して力を蓄えていく様は読んでいて痛快。
少年向けの創作では大きな力を持っているが精神的には未熟な主人公モデルが多いが、これはその逆である。精神成熟したジジイである。悪逆非道も躊躇なしである。実に読んでいて気持ちがいい。
物語の展開も面白かったが、何よりよかったのは洗脳シーンだ。
魔法という便利なものがある世界観ではあるが、洗脳魔法かけて「はい終わり」というわけにはいかない、そりゃもうじっくりねっとりと時間をかけて相手を洗脳・籠絡・悪堕ちさせていく。その手管も様々で、普通に支配下に置くだけじゃ制御しきれない相手もうまく絡めとっていく。記憶の刷り込みや性的な調教、無知な幼女に教育みたいなエロゲでもなかなか味わえないシチュエーションもあり、洗脳好きにはたまらん内容となっております。
2巻が出るのが楽しみだ。
魔王の始め方1 魔王の始め方シリーズ (ビギニングノベルズ)
- 作者: 笑うヤカン
- 出版社/メーカー: キルタイムコミュニケーション
- 発売日: 2015/02/03
- メディア: Kindle版
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異世界に転生して元クラスメイトを奴隷に「姫騎士がクラスメート!」
出版社様から直接献本いただきました。
今月より新創刊したレーベル『ビギニングノベルズ』の第1弾。
ここ数年「小説家になろう」などのweb小説が書籍化し人気を集めているが、この『ビギニングノベルズ』は男性向けなろうこと「ノクターンノベルズ」の作品を書籍化するレーベルだ。
そう、つまり一般向けライトノベルではなく男性向けのエロ小説である。表紙の女の子が性奴隷になってあへんあへんでれろれろぐっちょぐっちょだ。
web小説書籍化の並がエロにも押し寄せたのだ。webで人気を集めた男性向け作品が待望の書籍化を遂げたのだ。まさにビギニング! 男性向けweb小説の時代が今始まろうとしている!!
はい! 宣伝終わり!!
戯言はともかく、まじめに感想を書くと、
学生主人公が中世風異世界に転生するという、わりと一般ラノベでありがちな設定ながら、予想以上にエロシーンたっぷりだった。
超レアジョブである『魔隷術師』に転生した主人公は、現世でどれだけいやなことあったのかは知らないが、
俺はね、こっちに来て決めたんだ。第二の人生は、好きなように生きてやるって。
と言い放ち、女を肉体・精神ともに隷属し嬲り尽くすという清々しい系クズを全力で発揮しているので、出てきた女はとりあえず犯される。
シチュエーションも様々で、キャラも表紙の元クラスメートの姫騎士を始めとして女冒険者やロリ悪魔やお姫様などなど。
基本的には捕まえてレイプだが、『魔隷術師』のスキルのよって精神的にも従属させれるため、和姦よりのシチュエーションが多い。嫌がる相手を無理やりにっていうシーンはほとんどないのでハード系好きには物足りないかもしれないが、羞恥好きにはかなりおすすめできる。
個人的に良かったのはエロシーンの言葉のセンスが独特で、何度でも楽しみながら読めたところ。
なかでもお気に入りは
もっとも、そのイキたてオマ○コは挿入されたままのチンポを嬉しそうに、もぐもぐと甘噛みしているのだが。
と
「ぷはっ……ほら、引っ込み思案な箱入り乳首が出てきましたよ、姫?」
ですかね。
web版から追加で書き下ろしのエロシーンSSがあったり、巻末にボードゲームがついてたりとなかなかに充実な内容だった。
しかし『魔隷術師』を含めた世界観周りの設定がよくわからないのと、「暴走族が更生したら褒められる」理論でどう考えてもクズでしかない主人公がもてはやされる方向に進んでるのはもやっとする。
大きなストーリーに展開しようとしているのに、曖昧な設定が多いままだと集中して読み進められるか不安。やっていることのロジックが曖昧なせいか主人公も大したことしていないように見えてしまうけど、結果だけ見ればただのレイプであり、それで周りの出来事が動いていくのは今のところ偶然でしかないので読んでて釈然としない。
あくまで作中では偶然ではなく「予言」としているが、それを貫くならばもうちょっと設定に肉付けが必要ではないか。
あと気になったのはタイトル。
「姫騎士がクラスメート!」じゃなくて「クラスメートが姫騎士!」だろこれは!
男子高校生の性欲が爆発する!『この恋と、その未来』
一つ前の記事で純粋すぎるくらいの恋愛ラノベを紹介したが、そっちが徹底的にプラトニックな世界観を貫いていたのに比べるとこちらの作品は性欲が大暴れである。暴れん坊将軍である。
新しく始まった高校生活で男子寮の同室になった相手は性同一性障害の女の子だった。
はい! その設定、ナイス!!
いや、性同一性障害についてすごく真摯に描かれてはいるのだが、どれだけ「俺、身体は女だけどメンタルは男だから、そこんとこヨロシク」なんて言われても、主人公の眼前に突き刺さるのはおっぱいである。「それ日常生活で隠すの無理あるだろ!」と突っ込まざるを得ない豊満なバストが同室生活の主人公を誘惑していく。
なんか汚い話から始めてしまったけどヒロインの未来はおっぱいとか抜きにしてもすごくかわいいので、健全な男子高校生がそんな子と一緒に檻に入れられれば、もう辛抱たまらんってなもんですよ。好きにならないわけがない。
しかし、森橋ビンゴ主人公である。
そんなところで迷わず「俺、実はお前のこと……」なんて言えるようならいままでの森橋ビンゴ作品は世に出てはいない。
秘める。徹底的に秘めるのだ。この思いを伝えたら、全部壊れてしまうから。
東雲侑子の感想記事でも書いたが本当に森橋ビンゴ作品の主人公はこれだから嫌いだ。変化が怖いから何もできない。何もしない。
「ラブホに取材などと称して男女で入って結局なにもせずに出てくる系のラノベ主人公」が嫌いです。『東雲侑子は短編小説をあいしている』 - 主ラノ^0^/ ライトノベル専門情報サイト
今作の主人公とヒロインの二人は同じ寮の同じ部屋でこれからの高校生活を過ごす。
毎日、どころではなく毎朝、毎晩と顔を合わせる。そして同性の友人、親友のように触れ合う。
もうすでに彼の気持ちに火は付いている。その火の着いた導火線がいつ着火するのか、いつまでそれを抱え続けられるのか。
この恋と、その未来には果たしてどんな結末が待っているのか。
森橋ビンゴの作品はいつも先が気になって気になって仕方がなくなる。
『陸と千星』野村美月ワールドという別世界
家政婦を雇って屋敷ぐらしのお嬢様と、そのお屋敷に毎日新聞を届ける少年の恋物語。
いやーなんて甘酸っぱい設定なのだろうか。屋敷に住むようなご令嬢と新聞配達の少年ってだけで独特の世界観を築き上げている。いったい何時の時代のどこの国を舞台にした作品なんだろう。
なんて思ってたら、現代日本でした。
もう一度言おう、現代日本でした。
前々から薄々と感じてはいたけど、もう野村美月の描く世界観を現代日本というのははばかられるのでいっそのこと野村美月ワールドとでも呼んだほうが清々しいんじゃないかと思うのだがどうだろうか。いいよね、異存ないよね。はい決定。これからは野村美月ワールドでいかせていただきます。
で、
設定からぐいぐいワールドに引き込んでくる本作だが、ストーリーも素晴らしい。
男の子のほうも女の子のほうも一目見た瞬間からハートずっきゅんドキドキ片思い状態なのだが、めんどくさい思考が脳内爆発をおこしてどちらもアプローチをかけられず、それなのに互いの思考はシンクロして「あの子とお話してみたいな……。」なんてなんてなんて考えだす始末。
これが現代日本の中高生だったら絶対「ああ~あの娘とセックスして~」とか口に出してるよ、性欲が口から漏れだすよ。さすが、さすがだよ野村美月ワールド!
みんなストイックでプラトニックで野村美月ックなので、お互いの頭の中ではラブラブオーラが炸裂しているのにも関わらず関係は少しづつゆっくりと進展していく。相手に注がれなかったラブラブオーラはどこへいくのかというと読者の方に全力で飛んでくる。うわ、なんだこの超絶甘酸っぱい空間は! 誰か早くこの二人を爆発させてくれ!
そんな感じで野村美月作品特有のなんか小難しいこと考えちゃうキャラが終始炸裂している作品である。とりわけメイン二人の対比構造と、作中で出てくる牧神と仙女と呼ばれるもう一つのカップルとの対比が面白かったが、いかんせんクライマックスがインパクト不足。設定自体が古典的で地味っていうのもあり、コンパクトにまとめてしまっていることで地味なイメージに拍車がかかっている印象がする。
もう一人出てくる女の子もあんまり悪い子じゃなかったし、もう少しトリックスター的にかき回してくれたほうが楽しくなるような気がする。
あとがきによると、「文学少女シリーズ」などよりも前、「うさ恋」を執筆していた頃に書かれた作品だそうで、この作品が世にでなかったことが後の野村美月作品に少しづつ影響を与えているというのはなんとなく納得感がある。
1巻で完結していて読みやすいので、たまにはクラシカルな恋愛モノが読みたいって人はぜひ。
面白く無いのは罪「Seven deadly sins を狩る」
作者様から献本をいただきました。
なんでも電子書籍で個人出版をしているとのことです。
「教会」という組織によって作られた心臓貫かれても首ちょん切られても死なない、キリストも真っ青の再生能力を持つ主人公が「七つの大罪」と言われる身体から毒を分泌したり空中から刃物を飛ばしたりする程度の超能力者を戦闘本能の赴くままになぎ倒していく話。
俺TUEEEEEE系ですね。レベルとしてはE6つ分くらい。
一言で評するなら、完成度が低い。
作者も自覚していると思うけれど、設定まわりがよく練りこまれていなく、苦しい展開や後付けの設定が目立つ。文章から妥協の色が見え隠れしている。
そして地の文の描写が少なくて何が起こっているのかよくわからない。
ほとんどのキャラが外見についての説明がなく、「スーツの男」だとか「少女」だとか、登場シーン以降も代名詞が「男」「女」のみのため同性のキャラクターが登場するシーンだと一見誰がしゃべっているのかわからない箇所が多々あった。
特殊能力を使った戦闘シーンもその能力がどんな能力なのかビジュアル的なイメージがしづらい。場所の描写も少ないため、今どんな場所で戦っているのかもイメージできない。地下研究所のようなところかと思えばいきなり屋外に飛び出したりして読んでいて混乱する。
そしてこれらの欠点よりなにより重大なのがこの作品から全く魅力を感じないことである。
好きなことをとことんやり通すという主人公像はいいのだが、化け物たちを狩るという目的が目的なため共感ができなく、物語に入れ込めない。
ヒロインについても特筆して語るところはなく、とにかくキャラクターに魅力を感じない。
バトルシーンも前述した欠点の通りビジュアルがイメージしづらく、そもそもに敵の能力がありきたりな上になんのひねりもない。バトルシーンに魅力を感じない。
七つの大罪を一人ずつ倒していくというストーリーからも面白みが感じられない。ストーリーに魅力を感じない。
教会や魔王、大罪などの設定は悪くはないと思うのだが、その設定が十分に練りこまれていないため物語のすべてが破綻している。
今一度設定から煮詰め直したほうがよい。
アクマノツマなんです。
妻が悪魔です。
「それがなにか?」とでも言わんばかりのこの堂々とした感じ、間違いない石川博品だ! 囲め!!
というわけでC87で頒布された石川博品の新刊「アクマノツマ」の感想を書いていこうかなーーーーーーーーーーーーーって思ってたんですけどねーーーーーーーーーーーーーーーー。
感想? ねえよんなもん。いやさ、夫婦の惚気話を聞かされて、「今の惚気は面白かったですか?」なんて聞かれて、素直に面白かったって言える? 言える人はすごく人ができてる。
そんじゃそこらの夫婦ならまださておいて、こいつら17と17ですよ!? まだまだペーペーのがきんちょですよ。それが結婚して同居してケツさわって胸さわってへそ触ってですよ。もうさ、読んでるこっちとしては何も言えないわけ。どーぞどーぞお好きに、勝手にすきなだけイチャコラしてくださいって。
主人公の夫も夫で、こいつやれやれ系主人公装ってるけどやることやってますよ。あーもういやになるね。
ただのツマならともかくですよ。ツマがアクマなんですよ、つまりアクマがツマなんです。高校生でアクマの女の子と結婚して、夫婦生活送っちゃうんです。人間と悪魔が結婚ってどえらいことですよ。普通できませんよ。人間と悪魔が結婚なんて。
悪魔が嫁とか恋人だとか、マンガアニメではよくありそうな設定だけど普通じゃないんですよ。
それをひたすらストイックに、「妻が悪魔ですけどそれがどうかしましたかね」と言わんばかりに書ききる石川博品が最高にあったかい。
寒い冬にぬくもり感じるお話でした。ヴァンパイアサマータイムよりは大分評価がわかれそうだけど、自分はこのぬるさも好きだ。
自分の居場所はどこにあるのか「知らない映画のサントラを聴く」
この物語の主人公は自分と似ている。
23歳で独身で無職で親元に寄生していて目的意識は薄く、自分が承認を受ける場所を求めている。
もちろん自分は女ではないし、まるっきりの無職でもない。バイトをして得た、多少のお金を実家に納めて過ごしている。
しかし本質的には彼女となんら変わりはない、彼女は家事全般を受け持つことで、なにもしない無職が家に住んでいいという権利をもらっている。「ここは自分の家だし、この家には自分が必要だ」という承認を受けたつもりになっている。しかし心の奥底では思っているのだ、ここには自分は不必要だということを。
子供のころは誰しもが認めてもらえる、どんな陳腐なことでも周りの大人たちは笑ってくれるし褒めてくれる。子供のころが楽しかったのはそれが子供だったからである。子供のころはなんでもできる気がしたし、実際やろうと思えば何だってできたのだ。
「知らない映画のサントラを聴く」は自らの存在の話である。
別に哲学的な内容ではない、誰にでもある普通の話だ。23歳無職がとある事件を通して、何のために自分がここにあるのかを考える話だ。
突如家を追い出された23歳無職女・枇杷。いつも枇杷を支え、認めてくれた親友・朝野。大切な親友の元カレ・昴。三者とも、自分の存在が何のためにあるのかを必死で探し求めている。探して探して回って回って空転しつづけている。
その姿が、姿勢が、行動が、感情が、ただただエネルギーに満ち満ちているのだ。
人は、大人になったその時から自らの承認の場所を探し続けていくのだと思う。
なにか躓くときもあるし、ふらふらと倒れる日もあるけれど、再び立ち上がって、速度を上げて、回りだすのだ。
自分も回ってみようか―――そんなことを思える、パワフルな1冊だった。